2013年7月16日火曜日

子どもは変容する。だから彼らの可能性を信じ続けることを忘れてはならない。ー寺子屋教師体験談 中川愛(2012年秋季寺子屋教師@葛飾)

今回の活動日誌は、2012年秋季寺子屋くらぶの葛飾拠点に寺子屋教師として参加し、112日(土)から始まる冬季寺子屋くらぶにも再採用教師として参加される中川愛さんをご紹介します。秋季の寺子屋での学びやご自身の成長、子どもへの思いを語って頂きました。


[Profile]
名前:中川 愛
大学:国際基督教大学 教養学部 アーツ・サイエンス学科 学部2年生
年齢:19
所属:2012年秋季寺子屋くらぶ、2012年冬季寺子屋くらぶ
趣味:Canon 60Dで写真を撮ること






1Teach For Japan(以下、TFJ)のプログラム前の心境についてお尋ねします。
TFJに参加したきっかけを教えてください。

中川 TFJへの参加動機は2つあります。1つ目は、学外に出て他の大学生と共に活動し、新しいことにチャレンジしたいという思いがあったこと、2つ目は、教職課程を履修しておらず、教育がどのようなものであるかは書籍などからしか知り得なかったため、実際に教育現場へ飛び込み、現状を見てみたいという思いがあったからです。そもそも教育への関心が高まった理由としては、大学に通う中で、学校でしか受けられないと考えていた教育が、実は学校以外の身の回りにも溢れていると気が付いたことにあります。この身の回りに溢れている教育、つまり、勉強に限らず「人に何かを教える」ということはどういうことであり、どのような困難があるのかを身をもって体験したく、TFJに応募しました。

2.事前研修についてお尋ねします。
− 事前研修初日、どのようなお気持ちでしたか。


中川 何よりTFJの選考を通過し寺子屋教師として採用されたこと、TFJが自分を肯定的に受け入れてくれたことに対して喜びを感じていました。しかし、教育に関する予備知識がない状態で事前研修に臨んだため、寺子屋の支援の対象とする子どもの現状や境遇を知り、衝撃とショックを受けました。一方で、このような支援を必要としている子どもに、自分が思い描く教育を施すことができる立場にいるということが嬉しかったですし、早く子どもの顔を見たいという気持ちに駆られました。不安がなかったと言えば嘘になりますが、困難に出くわすことは覚悟の上で自分を試せることに胸が高まりました。

− 事前研修を通じてどのようなことを学びましたか。

中川 一番心に響いた研修内容は、リーダーシップに関するものです。高校時代の部活動や委員会においてリーダーの経験をしたことはありましたが、理想となるような目指すべき確固たるリーダー像は特にありませんでした。またこの研修を受ける前までは、自分はリーダーとしてよりも、リーダーを支えるサブリーダーが似合うと考えていました。しかし研修を受けて、チームの一人ひとりがパーソナルマスタリー(※)をもち、リーダーシップが発揮できるようにするのと同時に、メンバーが意欲的にビジョンに向かって行動するように働きかけることこそが、リーダーとしての役目であると学びました。つまり、特別な才能がある優秀な人だけがリーダーとなるのではなく、誰もがリーダーになることができるということです。これは、今まで曖昧であった自分の中のリーダー像を明確にする大きな発見でした。
※ パーソナルマスタリー
己を知り、自らの意思でそこに立ち、ビジョン実現のために行動すること



3.それでは、チームについてお尋ねします。
− 中川さんは葛飾の寺子屋でどのようなリーダーシップ・役割りを果たしたと感じていますか。

中川 指導初期の頃は、葛飾の中で指導経験が全くないというのが自分のみだったため、周りの寺子屋教師のことを、指導に対する悩みや不安がなく、何もかもできる人達だと感じ、圧倒されていました。しかし、指導を重ねる毎に、自分だけではなく周りの寺子屋教師も似たような不安をもっていたり、実は他の寺子屋教師からの情報共有を欲していたりすることに気が付いたのです。そこで、指導経験がない立場を活かして、寺子屋教師間での情報共有を活発に行なうように働きかけました。具体的には、メーリングリストに自分が感じている疑問を投げかけ他の寺子屋教師の助言を求めたり、良い指導ができた寺子屋教師には、何故良い指導ができたのかという要因や過程を説明してもらったり、塾講師経験者からは指導に関する情報・知識をシェアしてもらったりするなどをしました。
自分で課題解決を行なうことも勿論大切ですが、分からないのであれば「分からない」と発言し、分かる人が分からない人に教えるというような教え合いができる雰囲気を作り出したことが、私のリーダーシップであり葛飾拠点で果たした役割りです。指導経験がないことを自分の弱さとするのではなく、自分の強みとして捉えることで、自分らしいリーダーシップを発揮することができました。
− 中川さんにとって葛飾の寺子屋スタッフはどのような存在でしたか。

中川 常に自分に期待してくれた存在であり、鍛えてくれた存在でした。TFJは毎回の指導終了後、スタッフと寺子屋教師で、その指導が子どもにどのような影響を与え、どのような成果を生み出したのかなどのフィードバックを、重点的に行ないます。このスタッフからのフィードバックでは、厳しいことを言われることもありますが、自分の行動や課題を的確に指摘してくれます。今までの大学生活で、これほどきちんと自分を見て指摘し期待値を示してくれる存在に出会うことはありませんでした。葛飾の寺子屋スタッフは、フィードバックによる現状分析とともに、自分に課題や試練を与えることで、一回りも二回りも成長させてくれました。

4.寺子屋での指導についてお尋ねします。
− 指導を通じてどのようなことを学びましたか。

中川 これまで受けてきた教育や家庭の背景が異なる相手に、自分の想い・考えを伝えるにはどのようにすればよいのかということを常に考える中で、人に何かを伝え、信頼関係を築くまでのコミュニケーションをとることの難しさを実感しました。また、事前研修では様々なことを学びましたが、学んだことを実際に寺子屋の現場で実践することはとても難しく、頭で理解できていてもなかなか指導に反映することができませんでした。インプットした知識をしっかりとアウトプットできるほど自分の中に落とし込むには、まだもう少し時間がかかりそうです。
しかし一方で、子どもの個性や特性に即した指導を行なうことで、確かに子どもは変容するという手応えを得ることができました。例えば英単語の暗記方法に関して、自分が今まで当たり前だと思って行なってきた暗記方法が、担当する子どもには最適な方法でないと気付き、覚え方の指導を改善したところ、子どもの成長を実感することができました。子ども一人ひとりに適した指導を行なうこと、それは簡単なことではありませんが、本当にそれができたとき子どもは確かに変容するのだ、だから彼らの可能性を信じ続けることを忘れてはいけない、ということを強く感じました。



− では子どもに適した指導を行なうことで、子どもはどのような変容を遂げましたか。

中川 最初は面倒くさいというようなネガティブな言葉をよく発していましたが、根気強く指導をしていくことで、子ども自身が今勉強することの必要性・重要性を意識し始め、それを言葉にしたり行動にうつしたりするようになりました。寺子屋の初期ではできなかった、宿題をやってくること・宿題に丸をつけること・答えの見直しをすることを、今では自分なりのこだわりをもってやるようになりました。しかし、まだまだ変容できる部分はあります。冬季寺子屋では、子どもが自ら変容することを望めるように、そして、自分がその変容を秋季以上に期待しサポートしていく中で、具体的な結果を出させてあげられるように、頑張って指導していきたいです。

− 中川さんはどのような思いを抱き指導をしていましたか。

中川 私が担当した子どもは、自分の興味のある分野に対する探究心がとても強く、中学校や高等学校の教育ではなく、大学で活かされるような思考をしています。なので、今目の前にある学校のテストの点数だけで自分を判断するのではなく、自分の可能性を知ってもらいたい、そして、色々な出来事や出会いを通して、広い夢をもってもらいたいという思いを常に抱きながら指導をしていました。

5.最後となります。
− 寺子屋は中川さんにとってどのような場ですか。

中川 寺子屋は自分を変えてくれた場であり、今後の人生で困難なことに遭遇した際に立ち返ることができる場となりました。また、学びを与えてくれただけではなく、自分に期待しそれを実践するための役割を与えてくれた場でもあります。秋季寺子屋では、できるようになったことがある反面、まだできないこと・成長しきれていない部分が浮き彫りになりました。冬季寺子屋ではそのような部分をなくし、さらに成長できるよう全力を尽くしていきたいです。



指導経験がないことを自分の強みとし、「分からない」と勇気をもって発言した中川さん。そのような中川さんの行動が、葛飾拠点のチームワークを高め、結果として指導の質を向上させることとなりました。冬季寺子屋でも彼女らしいリーダーシップが発揮されることを期待しています。

Teach For Japan 学習支援事業本部

岡本 梓

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